そして。
相手の人も。
肩までの髪は寝癖で跳ねていて、印鑑を持ったまま、私を見て立ち尽くしていた。
私は突然のことに驚いたが、すぐに余所行きの笑みを浮かべる。
「こんにちは。水野と申しますけど、三原さんはいらっしゃいますか?」
「えっ……あの……あっ!」
女性は不明慮な言葉を発し、慌てている。
まだこの状況についていけてないようだった。
「もしかして、小春さん?苗字は聞いてなかったんですけど」
私のことを知っている?
仁くんから聞いたのだろうか?
「そうです。どうして私を?」
「やっぱり!わ~仁の、いえ、三原さんの言ってた通りの子だ」
さっきまで、おどおどしていたのが嘘のように女性は喜んでいた。
すごく子供っぽい笑い方をする。
それに私の質問にはさっきから何も答えてもらえていない。
彼女は私を知っているのに、私は彼女を知らない。
苛立ちを感じたけど、余所行きの顔は貼りつけたまま。