「馬鹿になるなり、死ぬなり好きにすれば良い。ただな、その鬱陶しい面を明日はするな。反吐が出る」
どうやら相当不愉快な気分にさせてしまったようだ。
彼はマフラーを巻きながら部屋を出て、靴を履く。
そこで私は口を開いた。
「あのね。馬鹿でもそれなりにわかってることもあるんだよ?」
榊田君は何も言わない。
「榊田君が、そう厳しいこと言うのは私のことを心配してくれてるからだってことぐらいわかってる」
視線が交わることはないが、私は榊田君をまっすぐ見る。
「ありがとう。今日だけじゃない、いつも本当にありがとう」
精一杯、ありったけの気持ちをこめた。
彼は最後まで、何も言わなかった。
そうだ。
榊田君と話していて確認した。
仁くんは私にとって絶対的な、特別な存在。
これで、諦めるなんてできない。
まだ、今は会う勇気はないけど。
とりあえず、明日はいつものように笑っていよう。
笑っていられるような気がする。
まだまだ私は頑張れる。
仁くんに認めてもらえるよう頑張るしかない。
歩みを止めなければ、いつか報われる時が来る。
自分の手で、願うものを掴んでみせる。
季節は巡るのだから、春は必ず来る。
私は玄関で拳を強く握った。