精一杯の背伸びを





「いただきます」



 そう言うと、一斉におかずに箸をのばした。


 私以外。


 仁くんが自分の料理を食べるのがどうしても気になった。


 彼が卵焼きを口に入れた瞬間、息を飲む。


 どうだろうか?


 上手く作れている。


 それは確かだ。


 だけど彼の舌に合うだろうか?


 懐かしさを感じてくれるだろうか?


 私の視線に気が付いた彼が顔を上げて、口を開いた。



「本当に料理ができるようになったんだな」



「どう?美味しい?おばさんの味と似てる?」



「似てるというより同じだ。久しぶりに食べたけど舌は覚えてるものだな」



 彼は、少し驚いた顔をした。


「いや、本当に美味しい」



 その言葉を聞いて安心した途端、空腹を自覚して、私も食べ始める。



「それはそうでしょ?私が徹底的に叩き込んだんだから。何をそんなに驚くのよ?」



 お母さんの発言に、彼が首を横に振り、



「いや、小春には全く料理の才能がないと思っていたんで」



「なるほど。それは確かに」



 二人のやり取りに口を挟むことはしなかった。


 反論の余地はないし、お父さんが私を庇うのがいつもの光景だから。


 案の定、お父さんが二人を睨みつけて、



「小春はお父さんの子供なんだから何の不思議もないじゃないか」



「…………」



「…………」



「…………」



 沈黙が何よりも雄弁に語っていた。


 それは、明らかな勘違いだと。


 これもいつもの光景で彼も慣れたように、お父さんを一瞥しただけでスルーした。



「しかし、小春は綺麗になった。さすがはおばさんの娘ですね。あっ、もちろんおじさんの娘でもありますからね」



「あら?私はもっと綺麗よ?この子はお父さん似じゃない。」



 そう言って、心外だとでもいうように片眉を吊り上げた。



「母子そろってお綺麗ですよ」



 彼は微笑みながら、私とお母さんを見た。


 短時間に、こうも彼に褒められるのは心臓に悪い。


 どんなに必死に地面にしがみついても、足が地上から浮き上がりそうだ。



「そういうわけで、小春、おかわり」



 彼が私にお茶碗を差し出してきた。



 ……そうそれが、おかわりの前のおべっかだったとしても。



 とにかく、私がつくった料理を美味しいと思ってくれているのは確かだから。