精一杯の背伸びを








「小春?」




 彼も立ち止まり私を見る。


 オレンジ色の光の中。


 私に優しく微笑みかける。


 その光景がとても綺麗で幻想的で。


 時間が止まったように私は彼を見つめた。


 手をゆっくり離す。




「仁くん」




 八年間の歳月が、あれから流れた。


 彼は垢抜けた。


 洗練された。


 確実に、時は彼の中でも流れてきた。


 でも。


 でも、変わらないものも確かにある。


 笑う時に少し下を向く癖。


 私をからかう時の口の端の上げ方とか。


 光の中にいるような暖かい眼差しも。


 本質的なところは何も変わってない。


 私が大好きで仕方がない彼だ。

 
 彼を想うたび胸が高鳴り、ドキドキする。


 幸せを感じる。


 温かさを感じる。


 愛しさを感じる。


 彼を心の中に思い浮かべると。


 それらが脳裏を過ぎる。


 時が流れても変わらないものが思い浮かんでくる。


 でも。


 一番に私が彼を想い。


 思い浮かべるのは……













「私ね……」




 きっと、この淡いオレンジ色の光に照らされた。


 残酷なほど温かで。


 優しい手なのだ。


 ずっと。


 彼は私の頭をゆっくり撫ぜた。


 懐かしく、温かい、私の幼き日々を思い出し、涙が頬をつたう。











 春はもうすぐそこだ。







          【完】