やっぱり放課後じゃないですか? 二人っきりで。そんでストレートに好きです! って。いやいや、恋愛経験なんてほとんどないんすよ、ホント。私なんか好きになる人なんていないですから。私、男みたいな性格だからモテないし。理想の王子さまがどっからか「迎えに来た」なんて言いながら出て来ないかなーとか思うんですけどね。でも大丈夫、先輩なら絶対オッケー貰えますよ。私と違ってモテるから。
 道路に面したカウンター席の下にバックを置いて先輩と並んで座る。冷めてしまったポテトを摘みながらそれを味が薄くなったコーラで流し込む。先輩は何とも言えない表情をしていた。自分で言っていて、なんてセンスのない返しだろうと思った。窓ガラスに映った自分の顔は今の所笑顔を保っていた。
 中学の時から好きな先輩に部活が終わったら話したい事があるなんて誘われて、舞い上がってしまった自分が悪い。もしかしたら告白されちゃうのかな? とか勝手に想像してドキドキしていた。部活なんかどうでもいいから早く終わればいい、早く先輩に会いたいと思っていた自分を馬鹿らしく思う。というのも先輩の口から出てきた言葉は、好きな子に告白しようと思うんだけどお前ならどんなシチュエーションが良い? とか、なんて言われたら嬉しい? とか私が聞きたくない内容ばかり。好きな人から自分以外の好きな人の話を聞くのってダメージでかい。応援したい気持ちと振られればいいのにって気持ちと自分を好きになって欲しいって気持ちが頭の中で喧嘩してる。
「お前はさ、好きな人いんの?」
 窓の向こうの通りを眺めながら先輩が言う。
「・・・・・・そりゃあ、いますよ。とは言っても私みたいなのが好きになっても相手にされないですけどね。可愛くもないしなんの取り柄もないし。私なんかに好かれた人が可哀想ですよね」
 自分で言ってて嫌になってくる。隣にいる先輩が好きですってもう言えないと思うと軽口がどんどん出てくる。
「そんなのわかんねーじゃん。お前の気持ちが大事なんじゃねーの?」
「それは・・・・・・」
 私は返す言葉がなかった。そんな事は言われなくてもわかってる。先輩のそういう所。誰にも真っ直ぐ向き合う感じ。最初は空気の読めないめんどくさい人だなと思った。ネガティブな事を言うとそれが冗談でもそんな事を言うなって怒るような人だったから。そんだけ、相手の事を思ってるんだって気づくまで時間がかかったけど。でも今は、それが辛い。
「お前が好きな相手に失礼だし、逆にお前の事が好きだって人にも失礼だろ。お前は可愛いから・・・・・・だから、もっと自信持てよ」
 先輩の口調は少し怒っているように聞こえた。小さく「はい・・・・・・」と返すのが精一杯で下を向いていた。悔しんだか悲しいんだかよくわからない感情がこみ上げてきて、スカートの上にぽたぽたとこぼれ落ちた。
「私、帰ります。それじゃ」と言って私は逃げるように店をでた。泣いてる顔を見られたくないし、これ以上先輩に慰められたら嫌いになれなくなりそうで怖かった。
 駅へ向かう途中何度も仕方無いじゃん、諦めようって自分に言い聞かせる。私がもっと可愛いかったらとかきちんと気持ちを伝えられてたらとかそんな事ばかり浮かんでは消えていく。もう遅いって。先輩が好きになった人が羨ましい。そんな事を考えていたらあっという間に駅に着いた。改札口へ向かう階段を登る途中でバックが無い事に気がついたものの、さっきのお店に戻る気力は残っていなかった。
「ついてないなぁー・・・・・・」とため息がでてそのまま階段にべたっとうずくまった。携帯も財布もない。結局さっきのお店に戻るしかない事はわかっていても、動けなかった。
階段を登る足音だけがコツコツ響いてる。
 しばらくすると足音が一つ、私の近くで止まった。
「む、迎えに来た」
 ゆっくりと顔を上げると顔を赤くして恥ずかしそうにしている先輩が三段ぐらいしたのところに私のバックをもって立っていた。
「何してるんですか?」
 少しふてくされたように言ってしまった。
「いいから黙って聞いてくれ」と言って先輩は大きく息をすった。
「お前が好きだ! 俺の彼女になってくれ!」
 先輩の大きな声は多分ホームまで聞こえたと思う。明日には学校の皆に知られているだろう。そんな事どうだっていい。私はぐしゃぐしゃの顔で先輩に抱きつく。
「私で良ければ」