カランカラン。

「いらっしゃいませ」

「やぁ。ちょっと早かったかな?」

店内を見渡すと、お客さんが二組入っていた。

「いつもの席にいるね」

僕は、窓際のいつも座る席にとむかう。
少しすると、なつがカウンターから出てきた。

「はい、アイスコーヒー」

「ありがとう。でも、頼んでないよ」

「もうちょっと待ってて欲しいから、おごり!」

くすっと笑うと、カウンターのほうに戻って行った。
ここから見る、なつの働く姿が好きだったんだよな。
アイスコーヒーにストローを指して、
カラカラと氷を鳴らしながら、なつをぼんやり見つめた。

それから少しすると、二組のお客さんが帰って行った。
なつは、カウンターから出てきて、空になったグラスやお皿をカウンターに乗せ、テーブルを片付け始めた。

「手伝おうか?」

「ううん。大丈夫だよ、ちょっと待ってて」

またカウンターの中に入って行った。
僕も、テーブル席からカウンターに移動した。

「待っててね、洗い物だけしちゃうから」

「忙しそうだね、もう少し遅いほうが良かったね」

「大丈夫だよ!」

洗い物をしているなつを眺めた。
なつは、色がとても白い。
肩の下まである髪の毛も自然な栗色。
目も真ん丸く大きい。ハーフのような顔立ちだ。
笑うと、ふにゃっとした顔になって小動物っぽい。
可愛いなぁ……って変態か!!

「終わったよ!」

「お疲れさま」

カウンターの中から、お皿を取り出した。

「これね、昨日うちで作ってきたの」

この店では絶対見かけないような…
肉じゃがや卵焼き、炊き込みご飯など。
少しずつ、お皿に乗せていく。

「一緒にご飯しよ」

「美味しそう」

お皿に入れ終ると、カウンターから出てきた。
なつは、横に並んで座った。

「いただきます。卵焼き好きなんだよね」

まずは、卵焼きから一口。

「うまっ。僕の好きな甘くない卵焼きだ」

「うちのは、卵焼き甘くないの」

「うん。こっちのが好き」

「肉じゃがも、味がしみていて美味しい!」

「本当に美味しそうに食べるなぁ」

なつは、じっと僕を見つめていた。
ちょっと照れ臭くなってきた。

「なつ、食べないの」

「見てたいの。あ、写真撮っちゃおう!」

なつは、エプロンのポケットから携帯を取り出した。

「撮ってもいいかな?」

食べてるとこなんて、恥ずかしいけど…

「いいよ」

「ありがと。自然に食べてていいからね」

自然にと言われても、不自然になるよな…
ぱくっ。ばくん。
食べ物を口に運ぶ。機械的作業…

「いいよ。撮れたよ。見てみる?」

自分のご飯食べてるとこなんか見たくない…

「ううん、いいよ」

「そう」

携帯をポケットに入れて、座り直した。
しばらく、二人はご飯を食べながら、
ポツポツと世間話を少しをした。
だいたい食べ終って、箸をおいた。

「ごちそうさま」

「美味しかった、ありがとう」

「うん、片付けるね」

なつは、パタパタとカウンターの中に入っていった。
カウンター越しに他愛もない話をしながら、
洗い物をして、お皿を拭いている。

「食後にコーヒーでも飲む?」

「要らない…」

カウンター越しになつと向き合う。
僕は席を立ち、カウンターの中にいるなつを見た。
少し体を乗り出し、そこにいるなつに軽く触れた。
栗色の、柔らかい髪の毛が指に絡まる。
近づくと、ふんわり花のような香りがした。

そしてキスをした。

「なつのご飯の味、まだ残ってる。
だから、コーヒーの味で消したくないんだ」

もう一度、軽く唇にキスをした。
ほんのりと、僕の好きな卵焼きの味がした。