人の印象というものは、ほんの些細なことで変わる。

ちょっとした仕草を見ただけで、いつもと違う声を聞いただけで。

私の場合は、栞に書かれた彼の名前を見たことだった。

先日、私は本を読みながらうたた寝していた。

疲れたあとに見る英字は、ただの模様だ。

ヒツジを数えるみたいにその羅列を眺めている内に、気がついたら私の意識は落ちていた。

そして、目を覚ましたら本はひとりでに閉じており、ここまでは普通のことだが、間のページに栞が挟まっていた。

敢えて現実的に考えれば、間違いなく向かいに座っていた彼の仕業だろう。

優しげな植物を思わせる黄緑色をした栞を目にしたとき、不審感を忘れてときめきかけた。

しかし、その栞を裏返した途端に目に入ったのは、彼の理知的とも思える外見に反した乱雑な字だった。

私が昔嫌いだった、いかにも野球しかできない浅はかな悪ガキの書きそうな字だった。

名前を知ることが出来たというのに、この有り難みの無さはなんなのだろう。

字の割にラミネート加工はごく丁寧なものだったし、持ち歩いているということは只のゴミではないのだろう。

不気味だし、また会ったときにそっと返しておこう。

そんなことを思っている内に二日間が過ぎていた。