会場に入って席を探した。椅子が少なくなっている。


『隣いいですか?』

勇気を出して声をかけた。


「…?あっ、いいですよ!」

振り向いたのは男だった。その男は嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうに言った。

今までの私なら無視されていただろう。
笑顔をつくりながら、心の中でバカにしてやった。

チラチラと視線を感じる。

【ヤバイ!メイク変?雑誌見て散々練習したのに!初日から失敗?】

一気に不安が襲う。こっそり鏡でチェックした。別に変じゃない。じゃあ何?


耳をすまして会話を盗み聞きする。


「あの黒いスーツの子すげえ可愛くない?」
「同感!名前なんて言うんだろ。」


そう言うことか。みんなこの造り物の顔に興味があったのね。

声のする方へニコッっと笑っておいた。


所詮人間は顔で判断されるんだ。