「しゃっくりは、ビックリすれば止まるんだよ」
と言って熊耳理沙は私にキスをした。
 幼稚園の時の出来事だ。30を過ぎて自分の子供がその時の自分と同い年になった今でも私はしゃっくりをする度に熊耳理沙を思い出す。
 熊耳理沙は幼稚園のクラスに必ず一、二人はいるマセた女の子で、色んな男の子にちょっかいを出しては喜んでいた。しかし子供ながらに目鼻立ちの整った美形でのその性格は、男の子もまた喜ぶきっかけとして十分すぎるほどだった。
 小学校も中学年になると熊耳理沙の美しさはめきめきと頭角をあらわし、それとは反比例するようにお淑やかになっていった。それが多くの男には堪らなかったらしく6年生の時には熊耳理沙の人気は不動のものとなっていた。
 私としてはマセていた頃の熊耳理沙のほうが好みだったが、やはりその美しさと人気の高さから中学校を卒業するまでクラスは違えども私も彼女に片思いする一人だった。
 一度だけ違う幼稚園に通っていた友達にキスのことを自慢したが全くと言っていいほど信じてもらえず、それどころか彼女の経歴を汚した嘘つき呼ばわりされ危うくイジメラレッコに転落しそうになった。それ以降、私にとってもその出来事は完全なタブーになり二度と口にすることはなかった。
 高校に進学して多くの地元の同級生とバラバラに分かれ熊耳理沙との縁もそれっきりになり、私は私で新しい恋に勤しんだりした。