「おとうさんは、森に木を切りにいってて……でも、いつも同じ時間に帰ってくるのに、昨日は帰ってこなくて。おかあさんは、『お父さんたら、また森で寝ちゃったのかしらね。 あの人、どこでも寝ちゃうクセがあるのよ』なんて、のんきにしてたんだ。ボクも、そのときは気にしなかったんだ。おとうさんが帰ってくるのが遅くなっちゃってるだけだって。でも、今日の朝、隣のおじさんが森に行ったら……おとうさんが血まみれで倒れてたんだ……」


 そんな……。

 男の子はしゃくりあげながら、こぼれ落ちる涙をぐしぐしと小さな手のひらで拭う。

 私は、ポケットに入っていたハンカチを男の子に差し出した。


「おとうさんは無事なの?」

「……村のお医者さんに手当てしてもらって、今は寝てる……」

「……そっか」

「ねぇ、おねえちゃんなら、倒してくれるよね?」


 男の子が私の服を掴む。
 
 真っ赤になった男の子の目が、鋭く私の目を射抜いた。


「おとうさんを襲ったバケモノ、退治してくれるよね?おねえちゃんは、すっごく強い魔法使いで、“天使”なんでしょ……?」


 男の子の言葉が、胸に突き刺さる。


「……うん、そうだね。わかった」

〈クレア……!?〉


 脳内に、ショウの低い声が響く。


〈そんな簡単に頷いて大丈夫なのか。相手は何者だかわからず、それにクレアはまだ完全には魔力が安定してないんだ〉

「……わかってる! わかってるよ……」


 声を荒げてしまって、隣で男の子がびくつくのがわかった。