あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]




 数秒後、エレベーターの扉が音もなく開き、眩い光が目を差した。

 目の前は広い空間で長い廊下になっており、両脇の壁はほとんど窓になっていて、この廊下にふんだんに光を取り入れている。

 使節団は代表者を一人残して残りの者たちはエレベーターの前に留まった。

 ここから先は立ち入られる者も限られてくるらしい。

 使者を先頭に紗桜、カカオとあたしといった順番で廊下を進む。

 ただでさえ白い空間に光を取り入れていて、あまりのまばゆさに緊張もあいまってか、目が眩みそうだ。

 それでも確かに歩みを進める。

 廊下の行き着いた先に、とても大きな両開きの扉が堂々と鎮座していた。

 そこに描かれているのは、交差した翼──ルクティアの紋章だ。

 この奥に、この国の支配者がいる。

 そう思うと、より一層緊張が高まった。


「オスガリア帝国 女帝 サクラ陛下
ウェズリア王国 国王 カカオ陛下並びに魔女 マオ様ご到着致しました」


 首を垂れた使者の言葉を合図に扉の両脇に控えていた天使たちが、優雅な動きで扉に手をかけてゆっくりとした動きで開いていく。

 廊下よりも眩い光が、室内から漏れ出した。


「──よくぞ、参られた」


 響く少し嗄れた男性の声。
 部屋の奥、少し高くなった王座に座す人影。
 力の大きさを示す、横幅3メートルは越すであろう見事な純白の翼。透き通るブロンドの髪は豊かに波打ち、それと同様の髭も胸元まで伸びている。
 まさに、この世の全てを知り尽くしているとでも言うような、威厳のある姿。

 白いローブのような物を身に纏う彼は、極めて穏やかな表情だ。
 敵意などは一切感じ取れず、内心少し戸惑うものの、それを表に出すことはしない。

 す、と流れるような所作で、紗桜がドレスの裾を持って優雅に挨拶をする。


「ルクティアの長 アドルフ様。お初にお目にかかりますわ。オスガリア帝国の統治を任されております。紗桜と申します。今回私《わたくし》の要望が聞き届けられ、こうして無事に貴方様に拝謁できました事、大変有り難く、お礼申し上げます」
「其方がかつて下界へと下ったという我が同族の者か」
「はい」
「此度はこのような機会に恵まれたこと、感謝している。先祖の故郷を訪れる機会などそう無いだろう。ぜひこの国を見ていってくれ」
「お気遣い、感謝致します」

 
 紗桜の挨拶が終わり、あたしはカカオと共に一歩前に踏み出した。
 
 金の瞳が、一挙手一投足、見逃さないとでもいうように、こちらを見ている。

 見られている。

 動じてはいけない。

 軽く息を吸い込んで、先程の紗桜同様、挨拶をする。


「アドルフ様、今回はルクティアにご招待いただき、感謝致します。 ウェズリア王国 カカオと申します」

「魔女 麻央です」と名乗り、カカオと同時に礼をする。


「ウェズリア王国……今まで関わりのなかった国とこうして相見えているとはな……」


 ルクティアの長──アドルフ様は髭に手をやり、ゆっくりとした手つきでそれを撫でている。

 間が怖い。

 怖くて表情を窺い知ることはできない。


「して……」


 予想に反して、声は柔らかいものだった。


「其方は、魔女、だったか?」


 不意に話を振られて喉の奥がひりついた。


「はい」


 なんとか声を絞り出したものの、掠れてしまったなんとも情けない。


「其方のことももっと知りたい。是非、明日の晩餐会で話してはくれまいか。きっとお互いに知りたいことも多いだろう。今回をきっかけにこれからの国同士の交流も増えていくとよいだろう」


 アドルフ様は、極めて純粋にあたしに──魔女に興味を持ったようだった。


「是非そうなると良いですね。私どもも今回の訪問を通じてこの国のことをもっと知っていきたいです。そして、祖国のことを知っていただきたいと思っております」


 なんとか言葉の続きを紡いで、明日以降の予定を軽く確認すること30分。

 こうして天界に来て一つ目の難所、挨拶が終了したのだった。