「リカエルさん!いる?すぐに来て!」

「お呼びでしょうか」


 城に着くなり、叫ぶと、すぐにメイド長が現れた。

 さすがリカエルさん。

メイド長でありながら、万が一の時、この城で指揮官となる力を持つ彼女なら。


「何も言わずにこれを受け取って」


 魔法陣を構築し、眼前に掲げれば、予想通り彼女はすぐに察してくれて、目を閉じる。そのまま魔術を行使して、あたしの記憶を彼女に送り込む。

 
「そういうことだから、〈千年霊木〉に行きたいの」

「状況は理解しました。しかし王族さえも、迂闊に入ることを禁じられている〈千年霊木〉にですか?」

「そう、急いでいるの。やはり簡単には中には入れないのね」


 こうやって、言い争っているヒマはない。

 クコの顔は相変わらず真っ青だけれど、気絶しないということはまだサンは無事だということだ。

 けれど、それも時間の問題かもしれない。

 急がないと……!


「結界云々はこちらにアカシがいるからどうとでもなるわ」

「『魔女の証』が入ることを許可しているのですね。それなら問題ないでしょう」

「ありがとう!」


 あたしたちは、リカエルさんに抱き着く勢いで駆け寄った。

 それを、無表情で制される。

 今はそんなことをしている余裕はないのだ。


「すぐに向かいましょう」


 リカエルさんは、よく見て気づくか気付かないかくらい薄く微笑むと、すぐに支度をすべく、身を翻した。

 あたしたちも、衛兵の格好から動きやすい格好へと着替えて準備をそれぞれ始めた。