とにかく情報が少ない。

 話し合った結果、まずは住民の情報収集から始めることに。

 軍に入ってきているものはどれも伝聞で、噂程度のものでしかない。

 一番正しい情報はやはり、当事者に聞くものだろう。

 しかし、使い魔がいなくなるということは魔術師にとって、ある種の恥ずべき失態である。

 一心同体なはずの使い魔に逃げられるなど、あってはならない事態だからだ。

 己が魂の半身に逃げられるほど、人格が危ぶまれる──そう認識されてしまう。

 そんななか、わざわざ使い魔が逃げた、なんてふれ回るようなことは、魔術師のプライドが許すはずがなかった。

 それでも、町娘の噂話、いろいろな憶測が飛び交う井戸端会議、はたまた街角の飲み屋の酔っ払いたちにまで核心を責め過ぎないよう気を付けながら、情報を集めていく。


「最近あの子、見ないねえ。元気に挨拶してくれて。よく走り回っているのを見ていたけれど」

「そうそう、うさぎちゃん用の野菜、わたしんちに買いにきてくれてたんだけどねえ」

「あそこのおっかさん、さいきんげんきねえなあ。娘さんが体調崩したとかで」

「そういやあそうだなあ。あのべっぴんさんが、やつれた顔しちまって」

 
 根気強く情報を集めていくと、ピースが少しずつ重なって、確かな形となった。
 どうやら、まだ若い女の子がその使い魔の主のようだ。

 場所は、城下町の隅の静かな住宅街。

 そこにいくためには、城下町で一番賑わっているところを抜けなくてはいけないようだった。

 けれど、城下町って、めったに来ないからついつい別のものに目移りしてしまう。

ウェズリアの城下町は、常にお祭りのように賑わっており、屋台のような店がいくつも連なっていて、この国の名物を販売している。

 賑やかな音に合わせて楽しそうに身体を揺らす街人。

漂う美味しそうな匂いに、音。

 五感を全てで刺激してくる。

いけないと分かっていても、涎がでてきちゃいそうだ。

そんな屋台の間を歩きながら、思わずあたしはキョロキョロ。

と、一つの屋台に目が止まった。

 屋台の台にいくつも突き立てられたあれはりんご飴みたい。

 赤くて丸い果物に、とろーりとした透明な液体をかけて、冷却魔法で一瞬にして冷ます。

 冷まされれば、果物はつやつやとした光沢を見せた。

 ふと思い出される、かつての記憶。

そういえば前に食べたのって去年の夏祭りだっけ?

 りんご飴なんてお祭り以外に食べないしなあ。

 でも、あれってりんごじゃないだろうし、なんの実なんだろう。

 味も気になる……。

 そんなことを考えていたらなんだか懐かしくなってしまって。

 どうしよう~、食べたくなっちゃったよぉ。

 あたしのげんこつくらい大きいけれど、ペロリといけちゃいそう。

 その飴を穴が開くほど見つめていると、クコが言った。


「まお様、カラムが食べたいんですか?」

「カラム?」


 聞き慣れない言葉。

 サーチェルだけの言葉だ。


「カラムというのは、あの赤い実のことです。 大きな木に、いくつもの実をつけ、成熟し、取れる時期になると実がもう取れるよと、合図するんです」

「実が? どうやって」

 
 魔法をかけてあるとか?

 たとえば、音が鳴るとか?

 悩んでも全然いい答えが出てこないあたしに、クコはクスリと微笑を浮かべた。


「じつは、カラムの実は、木になっているときは、まだ青いんです。さらに、硬貨くらいの大きさしかない。そして、成熟すると突然実が震えだし、赤く、拳くらい大きくなるんです。 それを目安に農家はカラムを収穫します。 カラムは甘酸っぱくて、上にかけた飴がとてもよく合います」


 ……食欲そそるようなことを言わないでよ。

 余計食べたくなっちゃったじゃんかぁ!