「もしかして、吟葉さん、本当に何も知らされないでここに来てるんですか?」


目を瞑ってウィッグの毛を切ってもらっている時、不思議そうに聞かれた。


何も…うーん。そうなのかな?


「ええ、まぁ。身なりを良くするみたいな事は知ってたんですけど。」


かっこよくする!しか聞いてなかった訳だしね。


ほぼ何も聞いてないに等しいよね。


「柚ちゃんは大胆ですねぇ。ただ面倒くさがり屋なだけなのかしら?」


「あっ…すごい今更なんですけど、妹と仲いいですよね。どういう関係か伺っても?妹はあまり教えてくれないので…」


「あら、それも聞いてなかったんですね。」


海澪さんの驚いた顔を鏡越しに見つめる。


頷こうとして、慌ててはい、と言った。


いけない、まだ散髪中だった。


「私は柚ちゃんのクラスメイトの姉です。美容師について学びたいって言うから少し知識と技術を貸しているの。」


今度は私が驚く番だった。


柚ちゃんそんなことしてたんだ。


常々すぐ行動するとは思ってたけどここまでとは。


すごいなぁ。


「しかも、ここErimaの姉妹店だから。こっちも本場の事を聞けるし、おばあ様とも直接話すことが出来てとても助かっているわ」


………?


待って、何の話をしているの?


今、おばあちゃんの話なんかしてたっけ?


そういえばさっきもおばあ様にはお世話にって…


「あっ!Erima!!おばあちゃんの携わってるって言う?フランスのブランドの!なるほど…」


「あら?!そこも詳しくは知らされてなかったのね。私から言ってもいいのかしら。まぁでもこの店に来てくれるくらいだし、大丈夫かしら。
あなたのおばあ様、Erimaの社長さんよ。」


…What?


社長?え??社長?!


「え、いや、フランスにいた時はそんな素振りは…」


「前線からは離れてらっしゃるからでしょうね。」


「ほぁ〜。」


なるほど?だから日本のお店にも顔が利くってことね。


そうならそうといってくれればいいのに…!


柚ちゃんもおばあちゃんも!


鏡越しに柚ちゃんをジロりと睨む。


視線を感じとったのか柚ちゃんは雑誌から顔を上げると、鏡越しに目が合った。


私の形相が多分すごいことになっていたのだろう、ビクッと肩を揺らして苦笑いしている。


もう、なんでみんな言ってくれないの。


普通に教えてくれてもいいじゃない!