____九重side


「まこちゃん遅いねー。何を買っているんだか。予定時刻30分オーバーだよ……もうっ」


そうボヤく私に、隣に立ってずっとゲームをしている昌美ことあっちゃんは素っ気なく、


「まぁいいんじゃない?どうせ予定もなくプラプラするってこのあとの予定にあったし。」


と言った。


なにがいいんじゃない?、だ。ただゲームする時間が出来て嬉しいだけじゃないの。


現に私の話は「あー」とか、「うんー。」とか、「そだねー」とか相槌を打ってくれてはいるけど聞いてもらえている気がしない。


修学旅行に来てまでゲームしなくてもいいじゃない……。


「あ、最終章まで行ったのに推しが死んだ。」


……わけのわからない単語も並べてるし!!


もっと構ってよ!!!もう!!!


むくれていたら暑くなってきた。


生憎にも今日はいつにも増して影が濃く見えるほどの光量。日本と違ってじめっとはしてないけれど、焼け付くような陽の光は容赦なく肌を焦がしてくる。


日焼け止め塗り直さないとなぁ。


あっちゃんが相手をしてくれないので暇で暇でしょうがない私は、目の前にある野外プールに目を移した。


少しだけれど暑さが紛れるよ……プール見るだけで涼しげ……。


それにしても綺麗なプール……。


小学生くらいの子達がキャッキャ言いながら水をかけあっている。


私もあそこに入って思いっきり遊びたい!!暑すぎる!!


しかし、誰も第1レーンと第2レーンには入ろうとしない。


よく見るとその二つのレーンの飛び込み台前には何やら文字が書かれている。


読めないなぁ。フランスに旅行に来たからって別にフランス語ができる訳じゃあないからな。


でも、雰囲気的に人の名前っぽい。


そんなことをぼんやりと考えていると、小柄な少女……いや?少年かな?中性的な顔立ちをした子がプールサイドをゆっくりと少し気だるげに歩いてきた。


サラリと今にも音を奏でそうな短髪の艶のある金髪に、サファイアのように輝き、光を跳ね返す蒼い瞳。小柄な体格はとても華奢に見えてなんだか頼りない。


頼りない……っていうか、儚い感じ。


人に対して「儚い」なんてイメージを持ったのは初めてだ。


綺麗な子……。


その子はシャワーを浴びた後、真っ直ぐに第2レーンに向かっていった。その姿はいまだに気だるげそうで。


シャワーを浴びた時にタオルを外したため、水着が露わになる。


女の子用の水着だ……。


ということは女の子なんだなぁ。今でこそ中性的な顔立ちをしているけれど、将来はきっと美少女になる事だろう。


そんな彼女は飛び込み台に立つと大きく息を吸って深呼吸した。


目を瞑り、開く。




そして、迷いなく、飛び込む________。