シャランッ


静かな廊下に鍵の擦れる音が響いた。


「なんで、受け取ったんだ、俺…。」


昇降口に繋がる通路は心なしか薄暗い。


春なのに少し肌寒くも感じる。




……水泳は辞めたのに。


あんな世界はもう嫌なのに。


ゴールの先が見えない競争なんて、ただの無駄な足掻きだ。


俺は…


ドンッ


「あ…。すいません。」



とっさに謝る。



ぼうっとしながら歩いていたらぶつかってしまったようだ。



互いにちょっと当たっただけで大したことはないが。



「…いえ。」



無愛想にも顔をサッとそらされてしまった。



ていうかコイツ、ちっさいな。



男…だよな?


俺が180位だから170位か?


てかめちゃくちゃ地味。


あれ?もしかして。



「首席の…?」


「え、あ、はぁ。」


ほんとに地味だな。


鼻まで延びた前髪にキチッと着た制服。


話し声も小さい。


目もそらしたままだ。


曖昧な返事。


下を向いていて表情は読み取れないが、声が強ばっていることから考えれば好意的な表情をしていないことは容易に想像がつく。


でも、なんか、興味をそそられた。


「名前は?」


「は?あ、えっと、沢本です。」


「俺は、2組の雨辻、雨辻晴斗。よろしく、沢本」


「はぁ、よろしくお願いします」


沢本は終始そっけない態度だったけど、


さっきまで沈んでいた俺はなぜかいなくなっていた。


気が紛れた、その言葉に尽きる、と思う。


沢本は会釈してさっさと廊下の奥に消えていってしまった。


俺が先程歩いてきた廊下だった。



それにしても……初対面で俺、嫌われたかも?