俊一は嬉しそうに箱からZippoを取り出し火を着けた。

カキーン!!

普通のZippoより音が響いて炎が揺らめいていた。
俊一は私を見つめて嬉しそうに言った。
『これ、俺にくれるの?』

私はニッコリ笑い頷いた。
すると俊一はZippoの蓋を何度も開けたり閉めたりしてZippoの感触を楽しんでいた。


私は視線を河に戻してずっと眺めていた。

すると俊一は隣で煙草を吸いながら話始めた。
『俺さ…。実は親父の再婚あんまり喜んでなかった。だって、親父今の再婚相手のあの人の事ずっと忘れてなかったんだ。
じゃあ俺のお袋はどうなんだよって思ってさ…。お袋可哀想じゃん。
でさ、俺もよく一人でこの河を眺めてた。』


私も河を眺めながら俊一に言った。
『貴方のお母さんの事、お父さんきっと愛していたと思うよ。ただ、お父さんだって一人の人間だからね…。君と同じだよ。
子供の為ってよく聞くけど、両親が揃ってたってそこに愛が無ければ、子供だってそれを敏感に感じとるんじゃないかな…。君だってそれは感じてたでしょ?』


俊一は頷いただけだった。


私は続けて言った。
『愛ってさ。形の無いものじゃない。
形がないってことはどんな形にでも出来るって事だと思う。
そして、愛は無限に存在するもんだと、私は母の昔を辿って学んだんだ。
確かに私や父を愛していたのは実感したけれど、母は一生分の恋をした人も私達に向けた愛とは違う形の愛を持っていたんだと思った。
それは決して裏切るとかじゃないんだよね。
同じ土俵じゃ無いから、どっちがどうのって次元じゃじゃないの。』


俊一は暫く黙っていたが、その沈黙は俊一なりに私の言葉を一生懸命理解しようと考えていた横顔だった。


二人の影が長くなった頃俊一がゆっくり口を開いた。
『愛ってさ。俺よくまだ分からないところがあるし、何か重いけど、とても大切な事で、人各々なんだけど、今のお袋も今のオネーサンの言葉でちょっと見方が変わったかな…。あの人一生懸命俺を理解しようとしてくれているのは分かったから。それも愛なんだよね…?』


私は俊一の顔を見てハッキリ言った。
『うん。愛だと思う。愛が何なのかは私も未だに分からないことの方が多いし、とても深い深いモノだと思うけれど、人を愛することは重いものだと思うよ。
と言うか、軽んじてするものじゃないと思う。
よくゲームみたいに思う人が多いけど、そんな軽くないし、尊いものだと私は母に学んだ。だから、そんな自分を大切にしたいし、それ以上に愛した人を大切にしたいと思ったんだよね。』


俊一は深く煙を吸ってゆっくり吐き出しニッコリ笑い明るい声で言った。

『オネーサン。俺帰るわ。お袋飯の支度してっからさ~。じゃあね。』

そう言って立ち上がり土手を下って行った。
私はまた河を眺めた。


『オネーサン!!』

俊一が土手の下から叫んだ。
私は振り向くと俊一はZippoを取り出し言った。
『俺さ!!またオネーサンに会えるまでにこのZippoの似合う男になるし、何時か心底惚れた恋愛すっから!!またね!!』


私はニコリと笑い掌を振った。