眠れぬ夜をあなたと

「あの、手が痛いんで、離してもらいたいんですけど」

質問に答える気はなかったので、淡々と事実だけを告げる。

「……俺は一度撮った被写体は忘れない。化粧や髪型が変わろうが肉付きが変わろうが、あんたは三谷ミコだ。骨格がそうなんだ」

このひとは、いつかどこかで仕事をしたことがあるひとなのかもしれない。

「骨格って……。保科さん、変人呼ばわりされても文句言えないですよ」

ヘラッと笑ってみせると、保科さんは眉をひそめた。

「あんた、昔もなそんなふうに、どうでもよさそうな顔して笑ってた。……あそこはあんたにとってそんなに生きにくい場所だったのか? あんたを支えてきた人間だってたくさんいたはずなのに」

唐突な言葉を浴びせられ、初めて正面から彼を見据えた。

「保科さんのおっしゃる意味がよく分からないです」

「……分からない?」

「仮に私があなたの言う人間だったとしても。換えのきかない人間なんていない……違いますか? 今日の仕事もそうですけど、いなくなればそこには後釜の『次のひと』ですよ」

「それとは違うだろ。スポットライトを浴びれる奴なんてほんの一握りだ。『三谷ミコ』もそのなかのひとりだったはずなのに、あんたは投げ出したんだ」

「……ご挨拶が遅れました。フリーライターの蓮田と申します。また、なにかご一緒する機会がありましたら、よろしくお願いいたします」

頑なに頭を下げると、ようやく保科さんは私の手を離した。

……過去は不意に私を追いかけて来る。

こんなふうに。