眠れぬ夜をあなたと

ネオンの灯りは、星の見えない空を明るくともす。

まがいものの光は、まがいものの安らぎしか与えてくれないけれど、それでも通りに出ると楽しげな人々と擦れ違い、孤独とは無縁の場所に思えた。

行き交う人々の中を、紛れ込むように生きてきた。

そしてきっとこれからも。


叔父に与えられた道を継ぎ合わせて生きている私を、志垣さんは快く思っていない。

きっと志垣さんの目には、いつまでたっても優しい叔父に寄生している姪っ子にしか見えないんだろう。

他人から向けられる負の感情は、いつだって私を地味に凹ませて落とす。

けれど、どう足掻いたって私は私で。私以外の何にもなれない。

今の私がつまらない存在だと言われたとしても。

街の陽気さと不似合いな、自虐的思考でうなだれてくる頭をなんとか持ち上げて、駅をひたすら目指した。


その衝撃をうけたのは、駅前にある歩道橋の階段に差し掛かったときだった。駆け足の足音とともに、グイッと後ろから強い力で大きめなショルダーバッグの紐を引っ張られたのだ。

ひったくりが頭をよぎり、腕を払おうと身をよじった。とっさに私の喉の奥から出たのは、ヒャッ、とかすれた悲鳴らしき音だけだった。

「わっ、みっ…美湖さん、俺っ。驚かしてごめんっ」

バッグから手を離して暴れる二の腕を掴んだのは、普段よりもずっと派手な真紅のアラベスク模様のシャツ姿のケイだった。