眠れぬ夜をあなたと

ただし私に対して浮かべているときは、なにやら不遜なことを言い出すのが常で、警戒レベルは下げられない。

「さすが元子役は違うねぇ」

「……何年前の話ですか、あんなの誰も憶えていないし。課外のクラブ活動みたいなもんでしたよ」

「そう? 本当は、あれが天職だったんじゃないの?」

含みを持たせる言い方をして、私の古傷をほじくりたい気分らしい。睡眠不足といつから飲んでるのか分からない酒で、志垣さんのテンションが変な方向を向いている。

「美湖ちゃんはさぁ、こんな地味な生き方が楽しい?」

……結局、入っちゃったよ。志垣さんのネチネチスイッチ。

普段はそうでもないのに、どこかにスイッチが隠れている。このスイッチが入ると何かを言いたくなるようで、これがまた面倒くさい。

「地味でけっこう。『神童もハタチ過ぎればただの人』って言うでしょ。私なんて神童でもなければ、愛嬌のある顔した隣のお嬢ちゃん的な役どころですよ」

美少女でもなければ、どちらかといえば十人並みの容姿。子役タレントなんて上手くシフトできなければ『あの人は今』にすら出て来やしないのに。