眠れぬ夜をあなたと

志垣さんもいっそのこと「マサに纏わりつくな」とでも言ってくれたらいいのに。

そうしたらこの人のなかの、憤りもストレスも薄れるんじゃないか。ある意味、恋愛より濃い男同士の友情は庇護と従属がないまぜになってタチが悪い。

志垣さんの心の澱(おり)を感知しない無邪気さを装おうにも、トウの立ってしまった私には無理があった。それでも、琥珀色のボトルの中身を志垣さんのグラスに注いで「私の酌は高いですよ」と、ふざけてみせた。

志垣さんも私の軽口に乗っかるように「金をとるつもりかよっ」と返す。

一瞬にごりそうになった空気を回避できて、小さいため息を吐いた私に志垣さんは「そう言えばさぁ」と、次なる話を切り出した。


「美湖ちゃんさ、最近マサの店で女王様キャラごっこしてるらしいじゃなぁい?」

「……女王? ああ、雅樹さんに頼まれただけです。私はもともと女王様気質なんて持ち合わせてないんで」

「友人の女王様を真似ただけ」と私が答えた途端、志垣さんは一瞬だけ目を眇め、ニヤリと口元を緩めた。たちまち悪戯な少年臭い表情を覗かせる。いい歳のそれも顎鬚の生えたおっさんに少年なんて形容するのは腹立たしいけれど、それがピタリとあてはまるのだ。

その表情で、クラブのお姉ちゃんを口説いているのを何度となく見たことがある。それが高確率で成功してるのも。