「電話で成本さんに意味不明な嫌味を言われたの、ガッキーのせいかぁ」


3日前に頼まれた特集記事の店を、7軒ほどピックアップして早速メールを送ったのは今朝のこと。

すると「1軒載せたい店があるのですが」と、昼過ぎに電話が掛かって来た。それが『セレナーデ』だった。

『セレナーデ』はこの界隈ではそこそこ知れた人気のホストクラブではあるけど、星の数ほどある店の中で、何もこの店を取り上げなくてもいいんじゃないの? と思っていた。

あえて入れなかったとまでは言わないが、叔父の店を取材するって……面映ゆい。

でも成本さんのひと言が、私をチクリと刺した。
電話の終了間際にサラッと「情報の出し惜しみはプロ意識に欠ける」と言われたのだ。

ネオン街の似合う志垣さんの講釈を受け、成本さんは『セレナーデ』の話しを持ち出したのだと、今さら気がついた私もマヌケだけど。だけど、わざわざ前上司にお伺いを立てるのもいかがなものか、って言うか、そんなに頻繁に連絡を取り合うような仲良しになってたんだ、このふたり。

私がバイトを辞めた後、志垣さんの口からは成本さんの名前が挙がることはなかった。まぁ、年月が経っていて、部下と上司の私の知らない信頼関係が育っていても当然なこてとなんだろう。