「くく、もうすぐ夜なのに、元気だな」

壮美はキセルを加えると、夜空に向かって煙を吐き出した。

そして、ある一軒のお店へと足を踏み入れた。

「あ、そこの若いの。相変わらずモテモテだねー羨ましいぜ」

「お、店主。売れ行きはどうだい?」

「いつも通りさ」

壮美が入ったお店は、一期屋と言われる団子屋さんだ。

そこの店主は、壮美とは顔見知りで、壮美が下町に来ると必ず寄る場所でもある。

「毎回思うが、よくあんな大勢の女たちから逃げられるな。後とか付けられないのかい?」

お盆に団子数本と、お茶を載せながら、店主は不思議そうに尋ねた。

「まぁ、一つの生まれ持った特技でね」

そう言ってまた、キセルを口にくわえた。

そんな壮美を店主は呆れた顔で見つめた。

「そうだ、今度うちに、新しい子が来るんだよ。身寄りがなくて、転々としていたらしくてね。」

「ふーん。じゃぁ、その子がいる日は来ないようにするよ。」

今、この店で働いているのは店主と、その奥さんである。

もし誰か別の人が働くとなると、壮美行きつけの店として知れ渡ってしまう。

(おなごもいない、余計な人間も少ない。ここでの唯一のゆとり場だというのに、知られてたまるか)

「安心しなよ。その子、とてもしっかりした子でね」

店主はその子について色々と説明していたが、壮美は興味なさそうに茶をすすった。

正直、この町のおなごの違いがわからない。

キャーキャー騒ぐし、すぐに噂を広めたがるし。

壮美も男だから、おなごにたかよられていい気がしないといったら嘘になるだろう。

「ま、家に帰りたくないときは、そこらの女に世話になるけど。今日もどこかに世話になろうかねー」

「おや、なんなら吉原にでも行けばいいじゃないか。」

吉原。別名男の天国

「やだね。金かかるし。それに、あそこの女は死んだような目をしてる。抱くのはもちろん、側にいるのも嫌だよ」

そう言うと、壮美はよっこらせと腰をあげ、店主に金を渡した。

「ごちそうさん。また来るよ」

そう言って壮美は店を後にした。