「あ、今日もあの方がいらしたわ!」

「どこどこ?どこにいるの?」

下町のおなごたちが、一斉に黄色い声を出した。

見るとそこには、道の真ん中を堂々と歩く男の姿があった。

一つにまとめられた茶色い髪に、少し着崩した青の着物、腰には武士の象徴である刀をさし、右手にはキセルを手にしている。

そして、長い前髪から覗くその顔は、見るものを思わず立ち止まらせた。

「壮美さま…今日も素敵!」

「こっち向いてー!」

彼の名は水野 壮美。最近下町で噂の遊び人である。

綺麗な顔と、少しずつ出されている色気が、おなごの心を掴んでしまうのだ。

また、そうちょくちょく顔を出す訳でもなく、一ヶ月に一度くらいしか街に姿を現さない。

ふらっと来てはふらっと帰っていくのだ。

そのため、彼が何者で、どこから来ているのかは誰も知らない。

そんな謎の多いところも、おなごが夢中になってしまう理由の一つかもしれない。

「ねぇ、壮美様。私の家に来ない?今夜親が出かけているの。寂しいいわ」

「違うわ、今夜は私と!」

ゾロゾロとおなごが壮美の周りに集まってきた。

そして次第に押し合いになり、混乱状態である。

しかし壮美は、この状況に慣れているのか慌てることなく、おなご達に紛れ、集団からうまいこと抜け出した。

押し合いに夢中になっている彼女たちはそんなことには気がつかない。