小さな恋だった

「子どもの嘘は、この場は置いといて。本当に友達の弟なの、日菜。 親御さん入院してるんでしょ? どこの病院? ちゃんと親御さんに連絡したの?」

弓子姉さんに正論を言われて、私はぐうの音も出なかった。
弓子姉さんは看護士だ。ここで下手なうそをつくと、病院病気関連だったらすぐばれてしまう可能性がある。
下手すると、宮武先輩と冬月先輩を警察に連れていかれてしまうかもしれない。
パニックになった私は、次の嘘も思いつかなかった。
決定的なピンチ。そう思ったときに、さっきまで私たちの様子を見ていた宮武先輩が口を開いた。

「僕の名前は冬月新。そこにいるのは弟の雪人くん。雪人くん、まだお父さんとお母さんが事故にあって入院したことがショックで、
まだ混乱しているみたいなの。入院している病院はきたまる総合病院だよ」

宮武先輩は目を潤ませながら言葉をつづける。

「僕たちがお姉さんたちの迷惑になるなら、僕たちだけで家で生活できるよ。だから、その、ごめんなさい」

宮武先輩は心も幼児退行したとは思えないほどの頭の回転の速さで、すらすらと私の嘘に乗っかってきて、私は驚いた。

「あら、そう…本当だったのね。北丸病院はここから遠いし、確かに預けることになる…か」

弓子姉さんはぶつぶつとつぶやくと納得したようにうなづいた。

「日菜。とにかくこういう大切なことはメールでもラインでも先に私に連絡すること。いいわね」

「うん…。連絡しなくてごめんね」

嘘が突き通せたようで私は安堵した。
ほっとしたことで、ふと弓子姉さんにたいする疑問が浮かぶ。

「そういえば弓子姉さん、今日夜勤でしょ。帰ってくるの早くない? まだ6時過ぎでしょ」

「何言ってるの? 今は10時。あんた学校は? 遅刻じゃないの?」

「うそでしょ!」

私はリビングの時計を見た。

10時15分。

私の部屋の目覚まし時計が壊れていたようだ。
心臓が跳ね上がる。
私は自室に戻り、急いで学校へ行く準備をしようとしたとき、パジャマの裾を宮武先輩に引っ張られた。

「ねえ、耳かして?」
私はかがみこむと、宮武先輩がこっそり耳打ちした。

「日菜ちゃん、ありがと。僕、記憶取り戻したよ」

「え」

私は驚き、宮武先輩をみる。
宮武先輩はかわいらしくウインクすると、「学校、遅刻だよ」とにこにこと笑顔で言った。