いくら願っても、過去は変えられない
そんなの誰だって分かりきってることだろう。


時間は刻一刻残酷と。

立ち止まることの出来ないもの。


失恋という痛みから逃げるということは、九条からも逃げるということ。


告白した日、私はそんなこと願ったっけ?


振られても、仕方ないって思ったんじゃないの?


じゃあ、どうして逃げるの?


クラスが一緒だということだけなのに、
失恋したからって九条から逃げるの?


違うでしょ。


失恋という答えを受け止めて、
理解しなくちゃいけないんじゃないの?


きちんと、振られた という現実を受け止めて………



****************


「瀬奈、座席表見に行こう」


「そうだね、近くだといいね!」


黒板に貼ってある座席表。
みんなそれを見ようと寄ってたかって
私たちを隠してしまう。


何人かの生徒はもう自分の席についているが、着いていない生徒は黒板に来る人の中に友達を探している様子。


教室の中は大勢の人でごった返す。


グループで固まって話している女子。
ワイワイと何やら盛り上がっている様子の男子たち。


ケータイで写真を撮り合う男女のグループ。


それぞれが楽しんでいる中、やっぱり私の気持ちは沈んだままで。


なかなか復活することはなさそう。


でも、嬉しいことに、
まだ九条は教室に来ていない。


告白してからもう1年が経とうとしているけど、まだ失恋という痛みは胸に残っているままだ。


立ち直れなくて、ついボロが出て泣いてしまいそうになる。


それに……

あの親友の鳴海にさえ告白して失恋したことを伝えてない…


1番最初に結果を報告しなくちゃいけない相手は、鳴海なのに。


深い溜息が出そうになるが、
空気を悪くしそうなので、我慢する。


そんな時、鳴海が笑顔で駆け寄って来る。


「私たち、席上下だよ!これで席移動しないでも話せるね」


「席まで上下なんだ!よかった。ひとまず安心だね」


…うそ。

安心してないくせに。


いつ入って来るか分からないこの状況で、私は常に緊張している。


でも、鳴海から衝撃なことを聞いた。


「そういえば、九条とも同じクラスじゃん。よかったね!九条のこと好きだったもんねー、それに、席は、瀬奈の斜め前だよ!!」


…今なんて、今なんて言った?


「…っ、ぇ?」


声が震えて、かすれていく。


中学時代の私はきっと喜んでいたんだろうけど、とてもじゃないけど今は喜べるような関係でもない。


中学時代、私と九条は、


“友達以上、恋人未満。”



という苦しい関係にいた。


きっと、苦しいと思っていたのは私だけで、九条はきっと何も思っていなかったんだろうけど。


それでも一度言われたことがある。


教室で、二人きりのとき。


九条はその日、日直で放課後は日誌を書いていた。


私は忘れ物を取りにたまたま教室に来て九条と出くわした。


日誌のことで悩んでいた九条に、
私が今日はどんなことがあった、などを伝えていくと、九条は私の顔をじっと見つめてから、


『やっぱ俺はお前とこの関係が心地良いんだよなー。友達以上だけど、それ以上にはなれない、望みもしない。みたいな感じの』


『えー?なにそれー、友達以上、恋人未満ってやつ?』


『そーそー、それよ!』


『あははっ!まぁそうかもね!
きっと私たちは高校生になっても大人になっても友達以上、恋人未満だよ』


たしかに、そう言われてた。


それに私も納得してた。


今となっては、その関係も崩れようとしている途中だけど。


だけど、今日から始まる高校生活は
良い一日にしたいから、

なるべくは失恋したことを思い出さないようにしたい______