それから九条のお兄さんと仲良くなって、小さい頃の話を聞いたりしていた。



一方、鳴海は、自動販売機に私たちのジュースを買いに行っている。



そこで、私は気になったことを質問することにした。



それは、九条のお兄さんが来たときからずーっと思ってること。




「お兄さん、聞いても良いですか?」



「んー?」



「九条とは、一緒に住んでないんですか?」



すると九条のお兄さんは少しだけびっくりしたように目を見開く。



すると、切なそうに顔を伏せた。



「…いろいろあって、今は別。」



「え…、あ、ごめんなさい。こんなこと聞いちゃって…」



どうしよう、まずいこと聞いたよね、
絶対。



そんな考えとは裏腹に、聞きたいことがたくさん溢れて来る。



どうして九条と別々なのか。
なにがあったのか。



全然気になってしまう。



でも、さすがに聞きはしない。



「別に平気」



私の顔を見ながら微笑む、九条のお兄さん。



すると、お兄さんは海を眺めながら消え入りそうな声でつぶやく。



「…俺は兄失格だ」



「え…?」



「あっ、なんでもない!
気にしなくて良いから」



少し元気なくなったけど、
お兄さんは明るく振舞っている。



なんだかそんなところは九条に似てる。



ダメだ私。
いつも九条を考えてる。



「いろいろ、ごめんなさい」



「なんで謝るの」



「いや…話したくないこともあったんだろうけど、話してくれたから…」



「まぁね…瞬の友達なんだろ?
少し知ってる方が、瞬もきっと楽だ」



それは、どういう意味だろう?
楽って……?



「って、お兄さんって呼ぶのやめてよ
俺は、九条 光琉」



「ひかる…」



「そ、光琉ね。
これからは、光琉でいいからさ」



私は高校生できっと相手は大学生。



やっぱ目上の人だし…



「光琉、くん…で良いですか?」



「ははっ、いいよ!
あー、俺さ大2ね」



やっぱ大学生。
しかも、大学二年生。



歳離れてる…………



「大学生だとは思ってましたけど、
そんなに離れてるとは思いませんでした…」



「んー、まぁそうな。
俺みんなに幼いって言われるし」




「…たしかに、幼い感じがして、
九条にすごい似てますね!」



私が笑って言うと、
またびっくりしたような顔になる。



「…ありがとな」



「え?なにがです?」



「俺、似てるのは顔だけだって嫌味で言われるし、性格は正反対だって言われるし、いろいろ否定されてたんだ。
でも、初めてふつーに似てるって言われたなって思って」



今度は切ない表情じゃなくて、
ちゃんと心から笑っているように思える笑顔。



私は、この人の笑顔を見るとやっぱり
九条を思い出してしまって。



あることを口に出していた。




「…九条は、私に心から笑ってくれなくなったんです…私が告白したからだと分かってはいるんですけどね」



「え…瀬奈ちゃん告白したの?
瞬に?まじで?」



「はい、中3の初めの頃に」



今思い出しても胸が痛くなる出来事だけど、九条のお兄さんだし、話してもいいかなって。




「今でも失恋の痛みは疼きますけど、
最近避けられなくなったから、もういいかなーって」




光琉くんは、私の顔をみて、
真剣な顔で質問して来る。



「瞬のこと諦めんの?」



「え…?」




とつぜんびっくりする。




諦めるというか、
諦めなきゃいけない、に近い気がする。

でも、ずっと好きでいるって決めた。


「諦めるというか、
諦めなくちゃいけないに近いんだと思います……だけど、諦めないです」




もう、思い出したくないけど………



いつか思い出になる日が来るんだろうか……




「そっか」




「…今はまだ辛いけど、
いつか思い出になる日が来るんだと思うと淋しいですね…」




好きじゃなくなる日が来たらどうしようって思うと切なくなる。




「…でも、私は九条が好きです、大好きです。だから何があっても私が九条を守ります。ずーっと好きでいます!
ずっと信じ抜きます!!」




これは嘘も偽りもない。




私の本心。




九条のお兄さんは、
すごく安心しきったような顔で私を見ている。




「瞬を好きになった人が、
瀬奈ちゃんでよかったよ。
瞬を…よろしくな」




微笑みながらそう告げるお兄さんは、
やっぱりどことなく寂しそうな
表情をしていた。