きみが教えてくれた夏

「なぁ、お前名前はなんて言うんだ?」



きゅうりを半分ほど食べたところで彼が訊ねてきた。
茶色がかった瞳を私に向けてにこにこと微笑んできた。


彼の笑顔はどこか人を惹きつける魅力があるみたいで。
安心するようなほっとするような感覚。



「成宮未来」



成宮未来。
それが私の名前。
未来だなんてキラキラした名前が昔からあまり好きじゃない。



「未来か、いい名前だな。俺は海の音って書いて海音って言うんだ」



海の音…。
連想されるのはザザーッて寄せては引く波の音。
何度も何度も叫んだあの波の音…。


嫌な記憶が思い起こされる。



「未来、どうした?」



横からひょいっと海音が顔を覗かせた。
茶色の瞳は私を心配してるみたいだ。



「なんでもないよ、いい名前だね」



私は少し無理矢理に笑みを浮かべた。
ピエロのように偽物の仮面をくっつける。
こうでもしないとまた余計に心配をかけてしまいそうで。



「ありがとなぁ。俺、自分の名前案外気に入ってんだ。海のあの青さと冷たさといったらもう言いようがねえなぁ」



海の青さと冷たさ。
私は誰よりも知っている。
海音なんかよりもずっと。
自信を持って言えるだろう。