あの頃の私達はまだ幼すぎた

「はい、もしもし」

シーン…。静まり返る4階。屋上の扉の前。

「もしもし、なにしてるの」

電話の向こうから聞こえてくるのは

この世で一番嫌いな女。

「ご飯食べてた」

「あっそ。それより今月の生活費ないんだけど」

「……あたしもないよ。給料日前だもん」

「はぁ!?なんでもうないのよ!!」

「この前あげたお金は?」

「あんなものすぐなくなったわ!!」

「そう…。」

「ねぇ菜美。タバコないの」

「……引き出しの中にポーチあるしょ。その中に残りのお金入ってるから」

「ふーん…そんなとこ隠してたんだ」

「ありがとう♪菜美あんたは自慢の娘よ」

「…ごめん。授業始まるからきるよ。」

「“お母さん“」

ツー…ツー…。

通話のきれた機械音をきいて。

浅く息を吐く。

条件反射のように頬を流れる暖かいものは。

涙なのか汗なのか確かめる勇気はなかった。