死と憤怒

お願いを聞くというよりは命令に従っているというような雰囲気で、ヴォルフラムは真っ直ぐに見据える。
無表情な双眸は強気な少女を映す。
「敬語。」
「はい、すみませ……あぁ、すまない。」
指摘されて言い正す。
「ローレンスを見習いなさいよ。ねー?」
「ははは、相変わらず手厳しいな。」
ローレンスは軽い口調で笑う。
「私がなにかした?何が気に入らないわけ。」
ずいっと顔を近付ける。
後退りすれば、メアリーはその二倍近付いた。
鼻と鼻が付くくらいの距離でヴォルフラムは足を止めた。
「ねぇ。」
答えを迫る声。
ローレンスは困った様子で見守っている。
「メアリーちゃん。勘弁してやりなよ。」
「煩い。黙らないなら席を外して。」
「……ごめん。」
メアリーの剣幕にローレンスは口を閉ざした。
ヴォルフラムは無表情のままだが、顔色で怯えていることは明らかだ。
(——息が、つまる。)
父と同じだ。
感情を否定する存在。
目の前の彼女は同じような雰囲気で、今度は逆を迫る。
(俺はどうすればいい。)
父の前だけ閉ざせばいいのか。
全てに閉ざすべきなのか。
「貴様は、感情ごと愛するのか?」
母のように。
「当たり前よ。」
つぶやきにメアリーが即答する。
「それも貴方の一部だもの。」
少し目を見開いた。
その言葉が、父と同じ雰囲気から発せられるとは思っていなかった。
「そんなことを気にするなんて、馬鹿じゃない?」
呆れたように笑う。
「そうだな。」
ヴォルフラムは少し緊張が解れたような表情で言う。
「!」
それを見たメアリーは頬を赤らめ、距離を取って、踵を返した。
「じゃ、じゃあ!ごきげんよう。」
そう言うとそそくさと去っていってしまった。
姿が見えなくなったことを確認して、ヴォルフラムはローレンスを見る。
「少しは距離が縮まったようだな。」
「あぁ。」
ヴォルフラムは少しはにかむとローレンスを見た。
「居た堪れなくして、済まなかったな。」
「良いって!友達だろー!!」
ローレンスはそう言うと肩を組む。
ヴォルフラムは黙ってなされるがままになる。
“あっちへいけ”と邪険にされるかと思ったが、今はどうやら機嫌が良いらしい。
そうして、帰路についた。


家は驚く程に静まり返っていた。

留守なのかと思い、扉に手をかける。

離れだから静かなのは当然で、いつもは母か父が居るから物音がする。