「牧田?

牧田なのか?」




「田嶋先生…」




『安心しろ。10分間はあんずと田嶋陽人の空間にしてある

周りは気にするな


この声もあんずにしか聞こえてない』




死に神の田嶋先生、ありがとうございます




「牧田…

俺、ずっとお前のこと好きだったんだ」





「田嶋先生、私死にたくなかったです

両想いなら尚更です


私も田嶋先生のこと大好きでしたから

いいえ、今も大好きです


これからも私の好きな人は田嶋先生です

でも、田嶋先生は生きているうちに私よりも素敵な人がたくさんいるんですから、その人のことを好きになると思います


そうなった時は私のことは忘れてその人と幸せになってください



私、先生のことを好きになれて良かったです

そして

先生も私のことを好きになってくれてありがとうございます」





そこで一度深呼吸をした



これで最期になりますね、田嶋先生






「田嶋先生

後悔しないでください

謝らないでください

私のこと忘れないでください


そして


他に好きな人ができたのならその人と幸せになってください

その時は私のことを忘れてください



自分でも矛盾なことを言っているのは分かってます





ただ、言いたいことは

田嶋先生、幸せになってください」




田嶋先生は私が話している間、一言も話さず穏やかな笑顔で聞いてくれていた


私の大好きな田嶋先生の笑顔

その笑顔で過ごしてくださいね





「牧田、俺は牧田のこと忘れない。絶対に


好きでいてくれてこれ以上ない幸せだ



死人にこんなこと言うのも変だけど、牧田も幸せなるんだ

牧田が幸せだと思った瞬間は、俺が幸せだと思った瞬間だ


今までありがとう。大好きだ」






田嶋先生はずるいね


そんなこと言われたら





"生きたい"





って思ってしまうじゃないですか



「田嶋先生、最期になりますね

私、もう、時間が、なくて…


幸せな時間をありがとうございました

さようなら」





私はとびきりの笑顔で別れた

好きな人に見せる最期の顔は笑顔でいたいから





「終わったか?」

「死に神…」



私はもう満足できた



「あんずは泣かないんだな」


「泣く必要なんてないですから

今、幸せなので」





大好きな人と過ごせたなんて幸せでしかない