五月雨・序


「…………うわ、マジに誰もいねーし。」

聞きなれた、少し低い声だった。
足音はアタシの近くに近付くと、止まった。
そして、一度溜め息をついた。
アタシより少し背の低い、高橋だった。

「…………谷…………か。」
「??」

耳を澄ませてみる。
窓枠に寄り掛かって上を向く高橋の顔が、夕焼けに照らされて一瞬だけ綺麗に見えた。

「何であんな奴に負けたんだろうなぁ~。」

高橋が一瞬こっちを向いて固まる。
高鳴る鼓動がアタシを壊しそうだった。
沈黙を破ったのは、高橋だった。

「……俺の方が谷口には近いのに。」

高橋は体勢を立て直すと教室を出て行きそうになった。それで、アタシは固まる体の力を抜いてしまったんだ。

“ガターーーン!”

「わぁ!!?」

高橋が驚いて変な声を出す。

「…………。」
「あ。」

目が、合ってしまった。