ここで体勢を崩しては、伊庭の思う壺だ。

炎が引火し、服が燃えているにもかかわらず、亮二は地面を転がって冷静に服についた炎を消し、即座に立ち上がって走り出す。

止まれば伊庭のいい的だ。

決して足を止める訳にはいかなかった。

例え背後で、教会が燃え落ちて崩落したとしても。

振り向きもせずに走り続ける。

…教会の中には、牧師が残っていた。

あの分だと、燃え盛る教会と運命を共にしたのだろう。

最期に『雪村 亮二は教会を脱出した』という報告を組織に伝えて。

彼は任を果たした。

亮二の行動を逐一報告しろという組織からの任務を、死の直前まで果たしたのだ。

それが正しい事なのかどうか、亮二には分からないが。