それよりも。

「伊庭、ほら」

亮二は一振りの刀を、伊庭に投げ渡す。

「……」

受け取り、鞘から刀を抜く伊庭。

彼も隠密の流れを汲む暗殺者だ。

刀の良し悪しについては詳しい。

…銘刀だ。

多分に人間の血を吸ってきた刀ではあろうが、その血脂による曇りもなく、刃は剃刀並みに研ぎ澄まされている。

試し斬りの達人が、六人の罪人の死体を積み重ねて振り下ろしたところ、六つの死体を切断しただけではなく刃が土台まで達したという天下五剣の一つ、童子切安綱に匹敵するだろう。

そこまでの切れ味を持っていながら無銘なのは、人間の血を吸い過ぎた、まさしく人斬り刀であったが故。

銘刀でありながら、国宝級の高貴さは持ち得なかったのだろう。