ズキッと胸が痛んだ。

聞くのではなかった。

応えなんて想像が出来たくせに…。

その後。
私は、先生の自宅を後にして帰った。

夜道を歩く途中、涙が溢れてしまう。

いつの間にか先生の事を気になり始め
好きになっていた。

既婚者だから好きになったら
ダメだと分かっているはずなのに

仕事に私情を持ち込んだらダメなのに
やっぱり私は、編集者に向いていないのだろうか?

翌日。
中途半端の思いのまま出版社に向かった。

オフィスに着くと自分のデスクに座り
ため息を吐いた。

これで何度目のため息だろうか。

「おやおや。ため息ばかり吐いていると
幸せが逃げちゃうぞ?」

えっ?

声をする方向に振り向くと河合先輩だった。

「河合先輩!?」

「おはよう。編集長は居る?」

驚いたが、編集長に用事があるようだった。

「お、おはようございます。
まだお見えになっていないようです。
急ぎなら私がお伝えしましょうか?」

「いや、いい。また出直すとするよ。それより
あまり悩み過ぎるなよ?」

そう笑顔で言うと行ってしまった。

河合先輩……。

いつもダメな部下である私に優しい言葉をくれた。

きっと家庭でも旦那さんや
父親をしているのだろうな。
ちなみに河合先輩は、既婚者だ。

よく考えたら私の周りで
素敵な旦那や父親になりそうな人は、
大体は既婚者だった。

まぁ、そんな人を他の女性が放っておく訳がないし
当たり前といえば当たり前か。

(ハァッ…いいなぁ~結婚。
私も好きな人と結婚してみたい)

そう思いながら先生の顔を浮かべていた。