一瞬、私のなかで時間が止まった。さーっという風の音しか聞こえない。 『ドン!!』 大きな掛け声と同時に、桜の影から一人の少年が風を切るように姿を現した。 そいつは颯爽と走り抜けた。 春の風になびく髪、スカッとするような疾走感、真剣な顔つき。 それはまるで雲ひとつない空を真っ直ぐ羽ばたく鳥の、大きな翼だった。