30メートル先の曲がり角を急いで曲がった。
「ーーっ!?」
彼は塀にもたれかかって泣いていた。
大きな右の手を眉間に当てて、静かに泣いていた。
ザッーー…
下駄が擦れる音。その音に反応して彼はこちらを見た。
「小林くん…」
この数週間で、どれだけ彼を悩ませたのだろう。
どれだけ彼を傷つけただろう。
「アヤ…?」
彼の声が唇から漏れる。
か弱くて細くて、いつも元気な彼からは想像がつかないほど小さな声だった。
「どうしたの?」
腕で目を擦って、明るく言った。
「…あはは。変なところ見られちゃったね」
彼から目が離せなくてーー…
「小林くん、ごめんね。
はっきりさせなきゃいけないこと、濁して。
私はズルい…。」
そう、ズルいの。
悪い人になりたくない。いい人でいたい。
だから逃げる。
だから問われる質問にいつも向き合わない。
だけどーー…
「小林くんが振られた理由を聞きたいなら話さなきゃと思ったの。
私……っ。
あなたが思ってるような人じゃないよ。
きっと、嫌になるよ…?」
向き合わなきゃな、って思ったの。
彼の真っ直ぐにくる気持ちに。


