涙で視界が揺れる先に立っていたのは、彼だった。
緊張の面持ちで、直立不動な彼が話したそうに口を動かす。


「…話しておいで、ね?」

そう言うと、ナツキは教室へ戻って行った。


沈黙が2人の間に流れる。
数分経った時、始業を告げるチャイムが響いた。
廊下に出ていた生徒がバタバタと忙しなく教室へ入っていく足音だけを聞いていた。



「……」

「……」


最初に沈黙を破ったのはやはり彼だった。


「アヤ、ごめん。…ほんとごめん。
悩ませて、そんな痩せて……俺のせいだよね…」

情けなく彼が言う。
その彼が愛おしくて、そして、腹も立っていた。



「小林くんのせいだよ…バカ」

「うん…」

「…ほっぺにキス、されたんだって?なんで言わなかったの?」

「キスは、キスだから…それに、俺はそれを隠そうとしたし」


真面目な性格がよくわかる。
そんな彼がとても愛おしいと思う私は、彼が好きで。
震える彼の手をそっと握った。