このクラスにはほかに日本人がいないので、最初は色々と手助けが要るだろうと思ったのだ。
彼はぼくの隣に座り、始業のベルがなると、いつも通り授業が始まった。
今週からいよいよ、豚の胎児の解剖の実験が始まるので、初日の今日は、簡単な解説ビデオを見るとのことだった。
この実験は考えるだけでも憂鬱だった。
「ぶっ…豚の赤ちゃんの解剖…? …何それ?」
すっかり青ざめているであろう新入りの顔を見てやろうと、ぼくは顔を横に向けた。すると、彼は驚いたようではあったが、思ったほどの衝撃を受けた様子はなかった。
彼は自分を安心させるかのようにぶつぶつと独り言を呟いていた。
「ま、でも日本では牛の目玉の解剖やったからな。あれを乗り越えりゃなんだって耐えられるだろ…多分」
牛の目玉…?
彼は言葉を失っているぼくに気がつくと、ニヤッと笑みを浮かべて、追い打ちをかけるように言った。
「皿の上にさ、ピンクの肉片がこびりついた牛の目玉が一つ、ポンと置かれてあってさ。それをはさみで切るんだけど、意外と硬くてなかなか切れなくて。それで何とか白身に切れ目ができると、中から透明の液体がドロッと……」
「やめろやめろ!」
ぼくは耳をふさいで目をギュッと閉じた。
彼はそれを見て腹を抱えて笑った。
「キョウジくん!いい、そのリアクション!」
いつまでも無邪気に笑い続ける彼を見ながら、ぼくは近寄りすぎず離れすぎず、と、笑いをこらえながら何度も自分に言い聞かせていた。