友達ではなかったが、こいつとはアートのクラスが一緒で、彼はよく僕の絵を覗き見しては、色々と褒め言葉を投げかけてきた。
彼の英語はなぜか聞き取りやすかった。
「よォ、キョウジ。こないだお前が音楽室でピアノ弾いてるの見たんだよ。ピアノ弾けんのか?」
「まぁ」
「さすがだぜ!実はうちのバンドのキーボードの奴がここに来る途中でポリに捕まっちゃってよ」
「スピード違反?」
「いや、家を出る前に飲んでたんだと。ま、とにかくそういうわけだから手を貸してくんないか。そうしてくれるとめちゃくちゃ助かるんだけど。オネガイシマス」
ティムは手を合わせて、いつものひとなつっこいいたずら小僧のような笑顔で頼んできた。
ぼくはこいつのことがそんなに嫌いじゃなかった。
むしろ、ユーモアがあって、いつもみんなを笑わせている彼に惹かれてもいた。いつも離れた場所から眺めながら、彼と友達になりたいと思っていたことを思
い出した。
「いいよ。楽譜はあるの?」
「サンキュー! 助かるぜ!」
そう言って彼はぼくを抱きしめた。
「来いよ! いまみんなで音楽室で練習してる!」
そうして彼は、座っているぼくに手を差し出した。
これこそ、ぼくが今までずっと求めていたものだと気づいた。
ぼくは彼の手をつかんで立ち上がると、彼とともに、音楽室へ向かって走り出した。