ぼくの通う学校では、毎月最後の金曜の夜に、体育館でダンスパーティが開かれる。
次のダンスパーティで、美耶子のバンドが初ライブを敢行すると言う。
美耶子はしきりにぼくを誘ったが、ぼくはそのたびに上手く話をそらしていた。美耶子は思っていた以上に単純で、ぼくの巧妙な話題のすり替えに何度も簡単に乗せられた。しかし、パーティの日が近づくにつれて、数あるはぐらかしの方法も、徐々に底も尽きてきた。そしてとうとう、前日にはひとつの方法も思いつかなかった。
「嫌なんだよ」
いつもの帰り道で、パーティに来るよう美耶子にせがまれたとき、ぼくは半ば投げやりで答えた。
「ぼくが行っても、ぼくは話し相手もいないし、ひとりではしっこの方でコーラ飲んでるだけになるよ。みんながにぎやかに、楽しそうにやってる輪のなかでね」
普段の学校では、輪の外に身を隠すことができる。しかしダンスパーティでは、そういうわけにいかない。自尊心さえもズタズタにされる屈辱は勘弁してほしかった。
「だから・・・」
ぼくがそう言いながら振り返ると、美耶子がいつになく悲しげな表情でそこにたたずんでいた。
幻滅されるか、上から目線の同情をされるか、根拠のない楽観論で説得されるかと思っていたぼくは、その美耶子の表情を見て戸惑った。
大切な誰かが、自分の目の前で不治の病の宣告を受けたら、ぼくもこんな顔をするのだろうか。
困り果てて言葉を濁していると、彼女は軽く深呼吸をして
「わかった!」
と、明るい笑顔で言った。
「それなら仕方ないよ。誰だってどうしても苦手なところってあるよね。あたしもお化け屋敷とか絶対無理だし!」
そして美耶子は、精一杯の笑顔でけたけたと笑いながら、ぼくの脇をゆっくり通り過ぎた。
「さ、帰ろ」
優しい笑顔で振り返った彼女に、ぼくは何も返す言葉が何も見つからなかった。ぼくは彼女のまぶしさを前にして、自分の小ささと臆病さを、否定しようもな
いほどはっきりと思い知ったのだった。