「あのさ…」
その日、ぼくたちはモールで映画を見終えて、表のフードコートでヨーグルトアイスを食べていた。
美耶子は、スプーンでアイスを口に運ぶ手を止めて、唐突に尋ねてきた。
「どうしていつもひとりでいるの?」
とうとう来たと思った。
自分のコンプレックスを悟られてはならないと思い、ぼくはアイスをすくいながら、心のなかで密かにガードを固めた。
「んー?」
「このあいだね、ランチタイムに、あのフットボールのコートの裏で、キョウちゃんがひとりでお弁当食べてるの見かけたんだよ。」
「へえ…」
ぼくはアイスのトッピングをスプーンで混ぜながら、まるで他人事のように答えた。
「まだ友達できないの?」
ド直球できいてくるなと思った。
これはアメリカ人らしさなのだろうか。それとも、彼女らしさなのだろうか?
「よかったらあたしたちといっしょにお昼食べる?」
ずっとその言葉を待ち侘びていた自分に気づいた。心のなかで色とりどりの花々が一斉に咲き乱れ、歓喜の鐘が鳴り響く。しかしすぐに、会話に入ることができずに、賑やかな輪の中でひとりお地蔵さんのように黙りこくっている自分の姿が目に浮かぶと、花たちは一瞬にして枯れ果ててしまった。
すぐ横の楽器店から、ショパンの華麗なる大円舞曲が、呑気に流れている。