｢鞠音さま！お待ちください！｣
｢鞠音さま！もう少しでぼっちゃまがお帰りになられますよ！｣

そんな糾弾を耳にも入れず、ものすごい速さでコンプレックスのトウモロコシのヒゲのような髪をなびかせる。

手入れの行き届いた芝生の上をかけまわっている少女の名前は星野鞠音(１９)。

｢タマさんヨミさん！明には内緒にしてくださいね！私もそろそろ恋をしたいのよー！！！｣

いつも身の回りの世話をしてくれているタマとヨミに心苦しいが前も見ずにひたすら走る。

この手入れされた芝生を踏みつけるのはいったい何回目なのか。

鞠音が逃亡するのはこれで100回目をこした。

長いな…、もう10分ちかく走り続けているのにまったく門が見えてこない。

ここを出たら…私は、恋愛をするんだ！明のいない世界で！もうあんなことを言われるのはウンザリなの！

『鞠音、俺の言うことが聞けないなら。アソコにかえすぞ？』

｢やっと…、やっと自由を手に入……────うぎゃあ！｣

見事な高笑いの途中、何かに衝突した。

庭のそこら中にある悪趣味な石像ではなく、なにか…柔らかいものに…。

跳ね返り、尻もちをついて恐る恐る顔をあげた。

照明に照らされてキラキラと輝く金髪が見下ろしていた。

｢鞠音、どこに行くつもりだ？｣

低く通る美声が鞠音の心臓を打ち破った。

そう、この美青年が鞠音の御主人様の郡司財閥御曹司の郡司明だ。

タマとヨミはこれみよがしに頭を抱えてため息ををついている。

嘘でもいい！どうにかこの場を食いつなぐのよ！

｢お、お帰り明！いっいつもより早いねぇ？！？！｣

｢どこに行くつもりだったんだ？｣