「―――…キナ
ユキナ!!」


「…ぇッ?! な、なにッ?!」


「なにって…通知表。
ほら取りに来いッ!」


「せ、先生?!は、はぃぃッ!!」




教室中に響く、笑い声


「まあ 二学期の評価だ
下がったやつは、次に挽回しろ〜

それといいか〜?
先生、毎年言ってる気もするがぁ
年末年始は、観光客の人たちがぁ…」




「まったね〜!

ねねねっ!帰り、なんか食べてこ〜!」

「上に出来たカラオケ行ってみよっ!」

「う〜た〜う〜ぞ〜!」




終業式は
湯気と舞い落ちる雪で
景色は、ホントに真っ白 ―――

…そして
あの"ユキナ"のウワサは…


テストが始まったせいなのか
皆飽きてしまったのか
ヘンな視線も消えていった


もしかしたら…
ホントに、先輩がなにか
言ってくれたのかもしれない…




駅前から少し行くと
ゴツゴツした岩が、たくさんある場所


そばにある案内板には
"じごく谷"の文字


そのすき間から
勢いよくお湯が、高くまであがって
ゆかたに上着をはおった
温泉帰りの人たちが
そばを通るたびにビックリしてる


…今は人がたくさんいて
にぎやかだからいいけど
普段は静かで、なんか怖いし
あまり、ここには近寄らない…

だって
ホントにじごくっぽいし…




――― もし…

私が死にそうになったり
死んじゃったりすることがあったとしても


…リョウスケを好きなキモチだけは
絶対に置いて行ったりしないし
カミサマにも…絶対 あげない


なにもない私が持ってる
たったひとつの、宝物だから…




…なんでこんなこと


突然思うのかわからないけど


なんか…急にそんなこと考えて


…怖くなって


皆のところに、急いで走った…