「両親がいないんだよ。」
「えっ!?」
思わず顔を上げて斉藤君の横顔を見つめる。
「俺が小学5年の時に近所の川で幼い子供が溺れる事故があってな。その子を助けようと父親は川に飛び込んだんだ。その前の日が大雨で、水位が高くなってて。川の流れがいつもよりもかなり速かった。それでも父親はその子供を抱きかかえると決して離す事は無かった。」
「…。」
「数キロ先の河口の近くでその子供と父親が見つかった。子供は父親に抱かれたままだったけど、微かに息をしていて、すぐに病院に運ばれて命は取り留めた。」
「あの…、お父、さんは…。」
「見つかった時点ですでに意識も息も無かった。」
「…。」
「母親は父親が無くなってから1年後。突然倒れてな。病院に運ばれたけど、そのまま入院。くも膜下出血と診断された。」
「そんな…。」
「診断されて1週間もたたないうちに息を引き取った。」
淡々と話す斉藤君の頬に、西日に反射して涙が光る。
「それでも父親の姉。つまり俺にとっての叔母夫婦が俺を一生懸命面倒見てくれた。育ててくれた。そして高校まで行かせてくれた。」
「…。」

