ごく普通な、幸せな家庭環境だったと思う。

家族が大好きな父がいて、優しい母がいた。

ひとり息子の俺は大事に育てられた。

でもそれは小学校に上がったとほぼ同時に無くなった。

父親の会社が倒産した。

最初は再就職に向けてがんばっていた父も、いつの間にか毎日飲み歩いては朝帰りをして夕方まで寝ているという生活を送るようになっていた。

家庭に収入を入れるため、母親は毎日働いていた。

毎日夜中に始まる喧嘩も、朝会うたびに傷を増やしている母親の姿も、他人の家のことのように思えて、どうしたらいいのか分からなかった。

ただ家族3人、笑っていたかった。

父親の暴力は夜だけでは収まらず、昼間から暴れるようになった。

もちろん、昼間は母親がいないから殴られ蹴られるのは俺だ。