雨上がる

「雨上がる」

 なんていうか、土砂降りですよ。夕立。あっちこっちで雷がなってもう逃げばないじゃんって。部活サボれば降ってくる前に帰れたじゃんって。昇降口の前で濡れてもいいから走るか、雨が止むのを待つか考えていると同じクラスの宮本が昇降口から出てきた。
「ごめんな天野。傘あったら貸したいんだけど、俺も傘無いからさ。気を付けて帰れよ。また明日」と言って、土砂降りの中を走って行ったかと思ったら、数メートル先で盛大にコケた。雨と泥で捨て犬みたいになった宮本は起き上がるとあたしの方に向かって「気をつけろよー」と手を振ってまた走って行った。宮本、基本的にはいい奴なんだけどなんか鈍いんだよなー。真っ直ぐっていうか。
 とはいえ宮本みたいにびしょびしょになるのは嫌だし、制服のブラウスが濡れてブラが透けるのも嫌だし。「今日は夕方から雨が降るみたいだから傘、持って行きなさい」と言っていた母に「どうせ降らないし、降ってくる前に帰ってくるからいい」と言った自分が憎い。
 結局、昇降口の中の戻って壁に寄りかかり、携帯を弄って雨が止むのを待つことにした。天気予報を見てみるともうすぐ止むらしい。
「あれ? 天野先輩誰か待ってるんですか?」
 声のする方を見ると同じ文化部の後輩の夏目が立っていた。
「んーとね、待ってるっていうのはあってる・・・・・・」と返すと夏目は少し考えてから何かに気づいたように「僕ですか!」と嬉しそうに答えた。
「・・・・・・いや雨が止むのを待ってるんだけど」
 顔を赤くして「ですよね」と呟いた夏目は俯きながら左手に持っていたビニール傘を無理矢理あたしに持たせると「俺、走って帰りますから。良かったらこれ使って下さい」
と言って背中を向けた。その瞬間、さっき宮本が盛大にコケたのを思い出し、咄嗟に夏目の制服の襟を掴んでしまった。驚いて振りかえる夏目に「ごめん、さっき同じように走って行った人がエライ事になってたから、つい掴んじゃった・・・・・・」と言うと「大丈夫ですよ、俺足速いですから」と夏目が言った。
 そういう事じゃないよ夏目と思いながらも気をつかってくれてるんだなと思うと嬉しくなる。
「良かったら、いれてもらえる?」と言って傘を渡すと「いいんですか?! 相合傘ですよ? 相合傘! 俺と一緒ですよ!」と嬉しそうな顔をしていた。
「別に誰も見てないよ、ていうか見られてもいいし」と言うと夏目は深呼吸してから「それでは」と言って傘を開いた。
 昇降口から外に出るとさっきまでの土砂降りが嘘のように雲の切れ間から太陽が申し訳なさそうに顔を出していた。
 夏目の方を見ると今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「夏目、一緒に帰ろっか」と言うと夏目は「はいっ!」っと、太陽みたいに笑った。