『カヲル!!』


俺は迫り来る巨大津波に目を見開きながらも叫んだ。


『もし、生まれ変わっても…!!また一緒にっ…!!』


最後の時にカヲルにどんな言葉をかけようかと考えていたが、口をついて出たのは何の慰めにもならない来世への儚い希望だった。


『だ〜め…』


カヲルはそう言って、俺の唇に人差し指を添えた。


それほど大きくはないはずのその声は、不思議とこの轟音の中でもはっきりと聞き取れた。


『二人にとっては可能性すら邪魔さ〜♪』


不意に、スピーカーからの声とカヲルの唇の動きが合わさる。


『はは…そうだったな…』


俺はハンドルから手を放すと、カヲルを思いきり抱き締めた。


『おい!!こんな最高の死に方があるか!?』


『あるわけないじゃん!!こんなイカした終わり方!!』


俺とカヲルは最後の口づけを交わした。


コントロールを失った車は蛇行しながらも終りへと突き進む。


俺たちには明日も未来も訪れない。


生き残る可能性も、生まれ変われる可能性すらも考えず、この瞬間だけを全力で味わいながら、
俺たちは躊躇なく車ごと岬からダイブした。


『いやっほぉー!!』


『いぇーい!!』


重力から解放された車内で二人の声がシンクロする。


恍惚の瞬間に溶け込むように俺とカヲルは抱き合い、お互いをお互いに刻み込むかのように見つめ合った。


そして、海面に叩きつけられる前に波の中へと呑まれて消えていった…。







軽量化されたスピード♪
紅蓮に染まる視界の中♪
分解してゆく世界へと♪



―――――――………