『さあ、ここからはノンストップで行くぞ!』


俺はくわえ煙草で、車に乗り込むなりキーを回してエンジンを始動させた。


『おっけー!』


助手席のカヲルは、シートベルトも締めて既に準備万端といった感じだ。

『コロニー…へ…のゲートは…ただ…今よ…り閉鎖され…ます…コロニーへの…ゲー…トはただ今…より…閉鎖され…ます…』


ラジオから聞こえてきたのは終末へのカウントダウンだった。


『ラジオは消して曲をかけて、窓も閉めて』


その言葉に、俺は黙ってカヲルを見つめた。


『最後くらい、好きなものだけに囲まれていたいでしょ?』


『そうだな。
そんじゃ…出発するか!』

アクセルを踏み込むと、軽快なマフラー音と共に車は閑散とした道路へと飛び出した。


♪錆びついたメタルのエンジンに〜♪


ありったけの「今」をつめこんでさ〜♪


『やっぱこの曲最高!』

割れたスピーカーから聞こえてくるロックに急かされるように加速は増してゆく。


今日だけでもう、何十回となく繰返し流されているこの曲は、
カヲルがファンクラブにまで入って追いかけていたバンドの解散曲だ。


『繋いだ手だけは離さないままで〜!』


車内に漂う煙草の煙りと、カヲルの音痴な歌声。


香りが好きってカヲルも言ってくれていた煙草をやめようと思ったのは、少しでも一緒に長く生きていたかったからだ。
結婚して生活していく為に、この金食い虫の旧車も手放そうと考えていた。


でも、無駄だった。
マイホームの夢もそれとは裏腹に一向に上がらない給料で考える浅はかな人生設計も全部無駄になった。


もうすぐ全部が木っ端微塵になる。


ここまで突っ走って来て結局、俺の傍に残ったのは煙草と車とカヲルだけだ。


『それで十分だろ』


俺は自分にそう言い聞かせ、この先で待ち受ける最高のエンディングへとアクセルを踏み込んだ。