老婆から着物を剥ぎ取った下人は、ただひたすら、黒洞々たる夜が広がる京都を走っていた。

もちろん、桧皮色の着物を脇に抱えながらである。

着物を盗んだ下人はこの上なく満足していた、今まで味わったことのない高揚感で心が満たされたのである。

下人は罪悪感などは微塵も感じなかった。

下人はただ生きることに執拗なまでに執着していた。